寝耳に水


消し去りたい失ったことの痛み
わたしを忘れないで、と彼女は死後も彼の耳に囁く


あらすじ

 真夜中、ぽたり、ぽたり……と滴り落ちる水の音がどこからか聞こえてきて、坂口(清水健治)に昔のことを思い出させる。それは、友人の長島(山崎和如)がふらりと訪れて坂口に話した奇妙な体験談だった。

 「痛い、痛い、一緒にいたい……」。長島の部屋でふいにそう呟いた恋人の弘美(長宗我部陽子)は、数日後、交通事故で亡くなってしまう。一体、あの言葉は何だったのか? 弘美は死を予感していたのか?

 
 長島は彼女を失った痛みを忘れようとするが、あるとき、雑誌の投稿欄に彼女の名前を見つけてしまう。彼に呼びかけているかのようなその投稿はあの世からのメッセージなのか……

 長島は投稿した女性に手紙を書き、会おうとするが、拒絶されてしまう。心の中に残っていた弘美への思いにまた火がつき、苦しみだす長島。悪夢の中で、誰かこの火を消してくれ、と求めると、水を滴らせながら、女がひっそりと枕もとに立った。彼女は亡くなった弘美であった……

☆解説☆

 長島(山崎和如)は助監督の仕事をしているときに見つけたSM雑誌の投稿記事を坂口(清水健治)に見せる。そして、その投稿を書いた処女のマゾヒスト・田代弘美に探し求める過程で体験した奇妙な出来事を話しだすのだが、しかし、彼が本当に話したいのは同姓同名の別人――事故死した恋人(長宗我部陽子)のことだった。

 映画の中では、幻影肢のことが話題になる。身体の一部を失ったあとも、まるでその部分がまだあるかのように痛みを感じるという不思議な現象のことである。長島にとって、亡くなった恋人・弘美はまさに幻影肢のようなものであった。

 だが、一体、なぜ長島はそこまで弘美の幻影に囚われ続けるのか。それは彼女が亡くなる数日前に唐突に発した言葉のせいだった。夕暮れの長島の部屋で呟いた「痛い、痛い、一緒にいたい」という謎の言葉。あれは自分の死を予感してのことだったのだろうか。

 謎の言葉を呟くときの長宗我部陽子がぞっとするほど美しい。長島と布団の中でじゃれあっていた彼女はふいに目を閉じる。そして、次に目を開けたときには、それまでの彼女とはまるで違うひとになっている。その目はまるであの世を見つめているかのようだ。

『寝耳に水』

(2000年・ビデオ・32分)

キャスト

長宗我部陽子(弘美)

山崎和如(長島)

清水健治(坂口)

山之内菜穂子(恵子)

スタッフ

製作:映画美学校(第2期フィクション高等科製作実習作品)

製作管理・進行:山口博之

監督:井川耕一郎

撮影:大城宏之、遠山智子、橋本彰子

照明:尾崎淳一、浅野学志、土屋直人

録音:宮田啓治、光地拓郎

アニメーション監督:新谷尚之

耳模型製作:湊博之

衣裳:鈴木紀子

編集:浦山三枝、荻野健一

助監督:佐藤宏紀、浦井崇、石住武史

スクリプター:四方智子

制作進行:北岡稔美、柴野淳、大野敦子

車輌:白石賢士

カテゴリー: 井川耕一郎, 寝耳に水   タグ: ,   この投稿のパーマリンク

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