寝耳に水 cast


長宗我部陽子(ちょうそかべ・ようこ)

1973年生まれ。95年、今岡信治『彗星待ち(獣たちの性宴 イクときいっしょ)』でデビュー。主な出演作に、常本琢招『新任女医 淫らな診察室』(97)、サトウトシキ『新宿♀日記 迷い猫』(98)、中田秀夫『リング2』(99)、風間詩織『せかいのおわり』(04)などがある。

キネマ工房(所属事務所)

長宗我部陽子について(井川耕一郎)

 鎮西尚一の監督作品『ザ・ストーカー』の撮影を見に行ったときだった。現場はガソリンスタンドで、鎮西は女優のそばまで行って何か話していた。演技に関することらしいが、遠くにいたのでよく聞こえない。だが、真剣に話を聞く女優の前でふいに笑いだしたのを見て、ああ、鎮西さん、のってるな、あの女優のことを面白がってるな、と思った。たしかに不思議な存在感のある女優だった。いや、非存在感というべきか。突っ立ってひとを見ているだけの芝居なのに、ほんの数ミリ、宙に浮いているような感じがあった。

 その女優が長宗我部陽子さんだった(当時は長曽我部蓉子)。彼女の魅力は演じる役柄からはみだしてしまう(非)存在感にあるのではないか。最後の最後に「本当は、わたし、人間じゃないんですよ」と真顔で言いだしそうな危うさが常にあるのだ。それは私が脚本を書き、山岡隆資が監督した『ニューハーフ物語 わたしが女にもどるまで』のときにも感じたことだ。長宗我部さんは記憶喪失になったニューハーフ嬢を演じたのだが、たたずむ姿を見てぞっとしたのを覚えている。これはまるで幽霊のようではないか……。そのことが強く印象に残っていて、『寝耳に水』の弘美役を長宗我部さんにお願いしたのだった。


山崎和如(やまざき・かずゆき)

1976年生まれ。早大入学と同時に演劇活動を開始。98年の『カエルとムームー』よりベターポーヅに参加。舞台の他に映画『明日の記憶』(06)、WEBドラマ『キミノミカタ』(06)などにも出演。8月7日(火)~12日(日)、下北沢OFFOFFシアターでベターポーヅ最終公演『4人の美容師見習い』がある。

ハイレグタワー(所属事務所)

ベターポーヅ

CM「東京スター銀行/スターワン住宅ローン篇」

WebCM「ホンダ SPIKE/Hobby in カーゴ」

山崎和如について(井川耕一郎)

 ベターポーヅの芝居には、独特のすっとぼけた味わいがある。それは役者の演技の質と大いに関係があることだ。演技から人間ぽいリアクションを徹底的に排除した結果、セリフとセリフの間に空虚だが、不思議と心地よい時間が流れる。たぶん、作・演出の西島明は、人間ではなくて人形を演じてほしい、と役者に望んでいるのではないだろうか。

 だが、ベターポーヅの芝居を何度か見ているうちに、もう一つ、別の楽しみがあることに気づく。役者が人形を演じようとすればするほど、ふとした瞬間にその役者自身の人間性がにじみ出てきてしまうのだ。山崎和如の場合には、他の役者が舞台の中央で芝居をしているのをじっと見つめているときがそうだった。彼のまなざしには、人間に対するやさしさと、事のなりゆきをきちんと見届けようという冷静さが同時に感じられる。

 これと同じまなざしを私は『寝耳に水』の撮影現場で見ている。撮影準備をしているスタッフを見つめる山崎和如の目がまさにそうだったのだ。山崎くんが演じた長島という役は、妄執にとり憑かれた、半ば気の狂った役だった。だが、狂った役を演じるには、人間を冷静に見つめる知性が必要だ。そういう点で、山崎くんは実に知性のある役者だと思う。


清水健治(しみず・けんじ)

1968年生まれ。立教大学在学中より自主映画を製作。それにあわせて友人の作品に役者として参加する。『寝耳に水』撮影時は映画美学校第3期フィクション科生。

清水健治について(井川耕一郎)

 本当のことを言うと、私は「演技力」という言葉をまるで信じていない。一般に演技力と言われているものは、それらしく見える演技の型をいくつ覚えているかということでしかないからだ。ピンク映画を二百本以上撮ってきた腕のいい職人監督である渡辺護はこう言っている。「スクリーンに演技力など映らない。スクリーンに映るのは、役者の人柄であり、存在感だ」。この言葉は演技に関する真実をずばりついていると思う。

 清水健治を見かけたのは映画美学校のロビーでだった。撮影実習の打ち合わせをする生徒たちの中にいて、彼は司会の役をやっていた。やがて打ち合わせが終わり、生徒たちは散り散りになった。テーブルの上には、灰皿やジュースの空き缶が置きっぱなしになっている。それを清水くんはたった一人で黙々と片づけていた。

 私はその清水くんの姿を見て、はっとした。半分気狂いになりかけている長島の話につきあう坂口には、律義さ、生真面目さが必要だ。だとしたら、今、目の前で片づけをしている彼こそ、まさに坂口ではないか。演技力の有無などはどうでもよかった(実際には、清水くんには演技経験があったのだが)。私は清水くんに出演をお願いした。結果として、このキャスティングは成功であったと思う。

山之内菜穂子(やまのうち・なほこ)

1970年生まれ。主に舞台を中心に活躍。主な出演作に『PANGEA』、『SEXはなぜ楽しいのか?』、『スウィート・アイデンティティ』など。昨年は夫で漫画家の天久聖一作・演出の『オスウーマン』に出演した。

山之内菜穂子について(井川耕一郎)

 『寝耳に水』は「シネマGOラウンド」という四本の短編からなるオムニバスの中の一本だった。このオムニバスの製作準備をしているときに四本合同のオーディションを行うことになった。大げさなことがイヤなので、最初は渋々の参加だったのだけれど、結果的に、このとき、山之内菜穂子さんと出会うことができてよかったと思っている。

 オーディションは六人ずつ部屋に入ってもらって面接するというものだった。当然のように大半のひとがとても緊張していたのだけれど、その中に一人だけ、他のひとの話に本当に聞き入って頷き、微笑んでいるひとがいた。そのひとが山之内さんだった。

 『寝耳に水』がかなり息苦しいドラマになることは脚本を書く前から分かっていた。なので、風通しのいい、ほっとするシーンを一つだけでもいいから作ろうと思った。そうして出来たのが、坂口と彼の妻・恵子との会話のシーンだった。私は恵子役を山之内さんにお願いした。オーディションで見た笑顔が強く印象に残っていたからだ。

 もう一つ、山之内さんの魅力には、声がある。『寝耳に水』のあと、私は『伊藤大輔』という映画論映画を製作したのだが、そのとき、山之内さんにナレーションをお願いした。彼女の声はやわらかく響き、表現に奥行きを与えてくれたように思う。

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