赤猫


ふと芽生えた幸せな生活への疑問

心に灯った不安の火が私の中の赤猫を目覚めさせる

あらすじ

 内村(李鐘浩)の出張中、妻の千里(森田亜紀)が流産した。風呂の電球を替えようとしてイスから落ちてしまったのだ。退院後の千里は窓から遠くを見つめてばかりだったが、ある夜、流産するまでに起きた奇妙な出来事を語りだした。

 きっかけは夫が浮気しているという噂だった。笑って噂を打ち消す千里だったが、次の日からネコアレルギーの症状が出て息苦しくなる。マンションに猫などいるわけがないのに、一体なぜ……?

 千里は夫が誰かの部屋で猫とじゃれているのでは、と疑う。夫の会社でバイトしている文子(永井正子)や、大学時代の写真に写っている女性(藤崎ルキノ)の姿が、千里の心に不安の火を灯す。

 やがて、千里は炎を見つめていると、息苦しさがすっと消えていくことに気づく。お腹の子によくないと思いつつも、火に魅せられていく千里。「火の匂い……わたしの中のわたしの知らない匂い……」。それは彼女の中に棲む赤猫が目覚めた瞬間であった。

解説

 千里(森田亜紀)が住む町では連続放火事件が起きていた。夫・内村(李鐘浩)の大学の後輩・文子(永井正子)は千里に向かって言う。「放火犯、早くつかまるといいですね。だって、妊娠中に火事を見ると、赤ちゃんに痣ができるって言うじゃないですか」。

 それにしても、「火事を見ると、赤ん坊に痣ができる」という言い伝えには奇妙なところがある。日常生活の中で人はそうたびたび火事を見るわけではない。なのに、どうして妊婦に火事を見てはいけないと警告するのだろう。妊婦には火事を見たくなる傾向があるのだろうか。燃えさかる炎に見入ってしまうと、彼女の中で何かが目覚めてしまうのか。

 千里には内村が不倫などするわけがないと頭では分かっている。けれども、夫のやさしさが彼女を不安にさせるのもたしかなのだ。誰に対してもやさしい夫は本当にわたしを愛しているのだろうか。そんな男を夫に選んだわたしは本当に彼を愛しているのだろうか。

 自分の身に起きたことを淡々と夫に語るうち、背景は闇に飲まれ、千里の顔だけが浮かびあがる。その顔には見る者をはっとさせる何かがある。彼女は過ぎ去った危機を語っているのではない。危機はまだここにある。千里の顔は夫に向かって愛の危機を訴えている。

『赤猫』

(2004年・DV・43分)

キャスト

森田亜紀(千里)

李鐘浩(内村)

藤崎ルキノ(加奈子)

永井正子(文子)

高橋かすみ(叔母)

植岡喜晴(焼け跡の男)

スタッフ

製作:映画美学校(第6期フィクション高等科製作実習作品)

製作管理・進行:山口博之

制作:岡崎健・小嶋洋平・近藤明範・中西朋暁・三好紗恵

監督:大工原正樹

脚本:井川耕一郎

撮影・照明:福沢正典

録音:臼井勝

助監督:天野隆太・外山弥呂・橋詰和幸・阿武隈川智

撮影助手:柿成大・四宮秀俊・平野晋吾・横浜聡子

照明助手:秋山恵ニ郎・江頭豊・鎌苅洋一・須賀豊・坪岳人・早瀬洋平・矢野由紀

録音助手・整音:有馬美保・伯野祥展・三好紗恵

美術:青山あゆみ・太田信裕・大川哲史・隅達昭・早瀬洋平

衣装・特殊メイク:長島良江・矢部真弓

特殊効果:粟津慶子・大門未希夫・岡田雄介・太田信裕・伯野祥展・古屋満丈・矢野由紀・横浜聡子

スクリプター:太田信裕

編集:天野隆太・大工原正樹

音楽監修:岸野雄一

音楽:伊藤慎介

カテゴリー: 大工原正樹, 赤猫   タグ: ,   この投稿のパーマリンク

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